一口馬主をしていたり競馬に関するニュースを見ていると様々な馬に関する病気や怪我を目にします。愛馬の怪我がクラブのレポートで掲載されると非常に心苦しい想いがあると同時に、載っている症状がどういったものなのか(怪我の重さ、病気の重さなど)分からない場合も多く、一覧にまとめてみようと思います。
いくつかの用語に関してはJRAのホームページの「競馬用語辞典」にも掲載があります。本家ということで充実していますので参考にしてください。ここでは一般的な用語の他に一口馬主をしていてレポートで出てくる言葉についてもチェックしておきたいと思います。
なお、馬の部位の名称についてもJRA様が詳しい画像入り紹介があります。部位が分かりにくい部分は画像を拝借して紹介したいと思います。
馬全体に関するもの
特に問題が発生しやすい脚元の部位の名称。
怪我に部類するもの
屈腱炎(くっけんえん)「エビ」「エビハラ」
前肢に発生しやすい。走行中の大きな負荷により屈腱に炎症を起こす。完治しにくい病気で再発しやすい。競争能力に影響してしまい引退となる可能性が高い。最近は時間をかけて治すことで復活する馬もいるが、それでもなって欲しくない病気。
俗称でエビ(エビハラ)と呼んだりする。エビの腹のように腫れることから。
管骨骨膜炎(かんこつこつまくえん)「ソエ」「ムコウズネ」「ムコウゾエ」
いわゆるソエと呼ばれる骨膜炎。骨が完全に化骨してない若駒に強い調教を行うと出やすい。化骨が進むことで心配がなくなる。ソエが出た場合はとりあえず調教を軽めにして、患部の炎症を抑えることが多い。患部の冷却やショックウェーブ(焼き療法)などで対処することもある。
ソエが酷くなると骨瘤(コブみたいなもの)となって跛行など起こし満足に調教も行えなくなるので、やはり激しい運動は控えることが多い。
前脚の前面に表れることから、パドックでもソエ気味の馬は確認できる。焼き治療をしている場合もポツポツとした穴が確認できる。
ケイジン帯炎「ナカスジ」
球節の真ん中に起きる炎症。球節部も負荷がきついのか?競走馬は腫れやすい。調教時に慎重に進めることが多い部分。
蹄葉炎(ていようえん)
重症になると立てなくなり予後不良という怖い病気。馬の蹄までの血液が十分行き届かなくなることで炎症を起こす。人間で言えば指先の壊死のようなものか?大きな馬体を小さな蹄で支える競走馬は蹄への負荷が高く、なってしまうと治療が難しい。
繋靭帯炎(けいじんたいえん)
馬の脚部でも特に腫れやすい球節部。種子骨があり、下側に繋があるが、その部分を繋いでいる靭帯の炎症。走る時に伸び縮を使うところなので腫れやすい。
飛節炎(ひせつえん)
後ろ脚の膝のような部分の炎症。人間では実はかかとに相当する部分。飛節は突き出している部分でもあるので負荷がきつく、この部分も炎症が起きやすい。
種子骨炎(しゅしこつえん)
人間で言えば親指の付け根に種子骨がある。親指の付け根を触ってみると骨の出っ張りがあるのですぐ分かる。馬でいうと球節部の下の出っ張り部分。人間でもランナーで炎症が発生するのをよく見るので競走馬にも起きやすい。変な走り方や負荷の掛かる走り方はこういった部分の問題が起きやすそう。
腱鞘炎(けんしょうえん)
人間の病名でも見られる腱鞘炎。筋肉の筋(腱)を包むものが腱鞘と呼ばれそこの炎症。部位によって屈腱炎の前症状などと見られ、腫れや熱感が見られたら運動を控えて回復を待つのが吉。人間だと同じ動作を続けてすると見られるので、競走馬の場合は走ることを続けることでやはり起きる。
骨折(こっせつ)
競走馬は大きな馬体を細い足で支えながら全力疾走するので、常に骨折のリスクとは隣り合わせと言えます。レース中や調教中に骨折することも多くあります。程度も軽度から重度まであり、骨折が判明したら一先ずは静養に充てるしか手立てがありません。ただ、骨折なら治療してターフに返ってくる事ができる事が多いです。
OCD(離断性骨軟骨症)
当歳馬募集の時やその後によく見られる症状。飛節部に多く見られる。乖離した骨軟骨片を取り除く手術が行われ、無事回復すれば競争能力に問題ないことが多い。気づかずに競走生活を終えることも、若駒の内に見つかったら成長して治すよりは早めに処置してしまう事が多い。
ボーンシスト
骨病変の一種。関節の軟骨の下にある骨の発育不良による。骨がしっかりしていない若駒に生じやすい。基本的に骨が弱い事の証明なので、ボーンシストの名が出ると競走能力にも不安が募る。
裂蹄(れってい)
蹄に亀裂が入った状態。冬場の乾燥時期に発症しやすい。蹄の怪我は人間で言えば爪が割れたような状況なので、新しいものが伸びて綺麗に固まるまでは運動ができないと言った難点がある。普段から蹄のケアは欠かさず行っていても、起きてしまうことがある。
エクイロックスというアクリル素材の接着剤のようなものをつけたり、テープで保護する事が多い。保護したままレースに出走することも。パドックでは蹄を見ている人ならすぐ分かる。
蟻洞(ぎどう)
蹄の内部に空洞ができる疾患。蹄は人間の爪を想像すると理解しやすい。少しぐらいなら痛みもなく問題ないが、放って置いて酷い状況になると治りにくい。蹄が伸びるのに時間がかかるので、気づいたら早期ケアが重要。
こちらもエクイロックスなどで保護する事が多い。
クラブフット
いわゆる蹄の形状異常。装蹄療法が行われることが多い。軽度から重度の症状がありグレードが1~4まで分けられている。早生まれの馬に多く見られ、一口馬主では早生まれの馬が見栄えがよく見えたりするが、実は寒い時期への急速な成長が良くないのでは無いかと言われていたりもする。(当方はデータ的な考察からも早生まれより遅生まれの馬のほうが好き)
挫跖(ざせき)
走行中や歩行中に石など固いものを踏んだり、後ろ足で前足の底を蹴ったりした場合に起きる蹄底の炎症。跛行を伴う。しばらくすれば治るので、安静にするしか無いという頓挫の一つ。
コズミ「スクミ」
筋肉痛の俗称。激しい調教を課しているのでコズミが出るのはある程度仕方のない部分。ただ、筋肉が硬い状態というのは競争能力にとって良いとは言えない。また調教後に「スクミ」が出たという報告もあるが、これはコズミ(筋肉痛)が悪化して、血流以上で動けなくなるような状態。
調教後にスクミが何度も出るような馬は、バシバシ鍛えにくいので体質が弱いということであまり成長できない。
病気に部類するもの
感冒(かんぼう)
いわゆる風邪。感冒が出て出走取消などがある。
心房細動(しんぼうさいどう)
心臓発作の一種。心臓の刺激伝導系の異常の模様。健康な馬でも突如発症する。レース中や、レース後、調教中、調教後など発症時は様々。レース中に発生すると急激にスピード低下となり危ない。
一時的なもので自然治癒する。キニジンという塩分的なもの?を処方して治療に当たる場合もある。
疝痛(せんつう)
馬の腹痛のこと。馬は構造上、腹痛を起こしやすい動物。疝痛にも複数あるが腸捻転などを伴うものは致命的となる。
フレグモーネ
急性の化膿性疾患。細菌が外傷部位から侵入して腫れる。早期発見、早期治療が肝とされている。
腰痿症(よういしょう)「腰フラ」
神経系の疾患で、頚椎の変形による狭窄が原因と言われる。また寄生虫による神経系の伝搬不良なども。腰フラの俗称が示すように立ち上がれなくなり、安楽死となることが多い。頚椎ということで馬房内で首を打ったり、寝違いなど、競走馬は首が重要ということを感じさせる。
馬インフルエンザ
馬の急性伝染病。入厩には予防接種が必要となっていて防疫している。
不調に部類するもの
喘鳴症(ぜんめいしょう)「ノドナリ」
通称ノドナリ。喉の神経麻痺などで喉の部分が狭くなり「ヒュウ、ヒュウ」「ゼイゼイ」と走っている時に音がなる。首が短く太い筋肉もりもりの馬はその構造上からノド鳴りリスクが高い。治療法としては外科手術(麻痺している部分を糸で引っ張って気道確保)を行う場合がある。
呼吸困難で全力疾走は厳しいことから競走馬の能力的には厄介なもの。
跛行(はこう)
歩様に異常をきたしている状態。様々な要因から跛行になるが、スムーズな歩様は競走馬の健康のバロメータでもあり、跛行がでると支障が大きい。
鼻出血(びしゅっけつ)
いわゆる鼻血。外傷性と内因性のものがある。内因性のものは軌道の毛細血管の破綻や肺出血で習慣性になりやすい。外傷性のものは基本、傷が固まれば治る。レース中に鼻出血になった場合は呼吸困難になって十分な能力を発揮できない。心房細動と同じくレース中の鼻出血はタイムオーバーの取り決めから除外される。
蕁麻疹(じんましん)
少し負荷のかかる調教をした後などにでる疲れによる皮膚の疾患。競走馬の調子は皮膚(毛艶)によく表れやすく、蕁麻疹は調子のバロメータとして扱われやすい。軽いものなら気にせず行くが、スケジュールと絡んで馬の調子を把握するために利用されていそう。
輸送熱(ゆそうねつ)
長距離を馬運車に乗って移動することで疲労により熱発する。馬はストレスに弱く、輸送に弱い馬も多い。
結膜炎(けつまくえん)
目は口ほどに物を言うというが、競走馬の目はチェックしたい部分の一つ。結膜炎は点眼などで比較的短時間で治癒する。競走馬の目は大きく見開いていることが多いので、目のトラブルは多そう。
トラブルに関するもの
落鉄(らくてつ)
レース中などに結構頻繁に起きている気がする。人間で言えば靴が脱げてしまったレベルか?裸足で走れないわけでは無いのである程度レースでは頑張れる。ただ、靴のない状態で路面を走るのを想像すれば蹄の怪我などが起きやすいのは容易にわかる。
人間のランニングシューズも進化しているので、蹄鉄もそろそろ進化してもよいのでは?と感じる。
創傷(そうしょう)
いわゆる切り傷。レース中、調教中、厩舎の中、放牧中などどの環境でも起きる。軽度であれば消毒液などを塗って回復するのを待つ。
いずれの病気や怪我に対しても軽度なのか重度なのかが重要なポイントの一つとなる。病名や怪我名がクラブレポートなどで出てくるとギョッとするが、続報を待って悪化しないで回復するのを祈るしか無い。